守秘義務との関係上、簡略化及び一部改変を行っています
1. ご相談の背景
ご相談企業は、中堅規模の企業です。
営業部門に長年在籍する従業員(以下「当該社員」)に関し、職場内のコミュニケーションや指示命令系統をめぐるトラブルが続いていました。
しかし、当該社員からの反発を避けるため、現場では当該社員の問題行為に対して曖昧な対応を続けるなど、収拾がつかない状況に陥っていました。
当該社員にも相応の職務経験があったため、会社としては頭ごなしに排除するのではなく、可能な限りの指導をして就労継続の道を探りたい、という立場でした。
他方で、当該社員の言動により周囲が萎縮し、管理職の通常のマネジメントが機能しなくなりつつあり、放置すれば組織全体の秩序と業務遂行に深刻な影響が出る、という危機感もありました。
そこで、私は、会社と協議の上、まずは会社が十分に改善の機会を付与すること、次に改善の機会を付与したにもかかわらず改善されなかった場合に退職に向けて進められるように準備することをゴールとして対応を進めていきました。
2. 争点になりやすいポイント
問題社員対応では、後日「不当解雇だ」「会社側の指導体制に問題があった」といった主張されがちです。
そのため、会社側としては次の点について説明できるように準備することが特に重要になります。
- 当該社員のどのような言動(メール、発言、業務命令への対応等)が、客観的にみてどのように業務に支障を生じさせているか
- 会社が注意・指導・面談・配置検討等により改善の機会を与えたか
- 改善の機会を与えられたにもかかわらず当該社員の問題行為が改善されなかったか
- 以上について証拠が残っているか
3. 基本方針
ご相談を受けた時点で、会社には「これ以上、現場に丸投げしない」という強い決断が必要でした。そこで、私は次の3点を軸に、業務体制を組み立てました。
- 社内での協同体制の確立:上長が自身の判断で個別に対応するのではなく、人事担当者や私と協同し、会社としての回答・指示を整理しながら業務指導にあたる。
- 証拠化の徹底:当該社員とのやりとりはすべて記録に残す。当該社員に送るメールは事前に上長・人事担当者・私で協議し、当該社員から揚げ足取りをされないように隙のない文面を作成する。
- 段階的な対応:問題行為があったからといって直ちに解雇するのではなく、注意指導書の交付→軽い懲戒処分→重い懲戒処分→退職勧奨(任意での退職提案)→解雇というように粘り強く改善の機会を与える。
4. 実際に行った提案と作業内容
(1) 状況の整理と方針の提案
まず、会社が問題視している過去の問題行動を時系列で整理しました。過去の対人トラブルや上長の業務命令に対する問題のある態度などを洗い出し、どのような点を改善してもらう必要があるのかという点を可視化しました。
その上で、会社には「当該社員の反発を恐れて曖昧にすることはやめる。会社として必要な注意指導や懲戒処分を行い、当該社員に対して十分に改善の機会を与える」という方針を提案しました。
つまり、当該社員に対しては、抽象的な「お願い」ではなく、会社が問題視している点を具体的に示すと共に改善の方法について指導を行い、改善の機会を与えるという対応に切り替えました。
その上で、当該社員が問題点を改善しない場合は、最終的には解雇とせざるを得ないことも合わせてお伝えしました。
(2) 実際の作業内容
私にご相談を頂いた当時、ちょうど当該社員が上長からの業務指示に反発をしているという状況がありました。
当該社員は、上長からの業務指示について、「『●●を行うようお願いします』というように『お願い』はされたが義務として行うことは指示されていない」「仮に指示だとしてもいつまでに対応するかは指示されていない」といったように、上長からの指示内容に対して揚げ足取りをする形で業務指示に従わないことの正当性を繰り返し主張していました。
そこで、上長・人事担当者・私で協議し、何を・具体的にどのような手順で・いつまでに行うのかを整理し、またそれが業務命令として指示しているものであるため拒否することはできない旨を明記したメールを作成しました。そのメールの中では不明な点があれば必ず質問し、放置することは認められないということも明記しました。
このようなメールの内容で明確に業務指示を行ったものの、当該社員はその指示に従わず業務を放棄したため、上長と人事担当者で当該社員から業務指示に従わない理由についてヒアリングを行うこととしました。そのヒアリングで想定される当該社員とのやりとりについて、会社と私で相談しながら想定問答を作成し、面談を行っていただきました。
その面談の中で当該社員からは自身の正当性についての主張が多数出されたため、上長と人事担当者は一度主張をすべて持ち帰り、私の方でエクセルで当該社員の主張に対する反論をまとめたものを上長を通じて当該社員に交付していただきました。
それでも当該社員は上長からの業務指示に従わなかったため、私の方で①会社が問題視している事実、②当該行為が就業規則のどこに違反するか、③会社として求める対応・改善等を作成した注意指導書を作成し、上長・人事担当者から当該社員に交付していただきました。
このように会社からは改善の機会を与えましたが、それでもその後同様の問題行為が繰り返し発生したため、その都度、当該社員に弁明の機会を付与し、①会社が問題視している事実、②当該行為が就業規則のどこに違反するか、③会社として求める対応・改善等を明確に示しつつ、複数回、段階的に懲戒処分を行いました。当該社員の言い分の確認や懲戒処分の通知にあたり、私の方でヒアリングシートや懲戒処分通知書を作成し、隙のない対応を行いました。
それでも当該社員は同様の問題を繰り返したため、人事担当者と私の方で条件を詰めた上で退職の提案(退職勧奨)を行いました。退職勧奨を行う際は、退職強要にならないように注意する必要がありますので、私の方で事前に注意点を人事担当者に共有し、適切に対応できるようにストーリーを固めました。
しかし、当該社員は条件交渉の末最終的に退職の提案を拒否しましたので、私の方で解雇通知書を作成し、当該社員は解雇となりました。
その後、当該社員からは「解雇は無効である」という主張がなされ、裁判所で争われることになりました。
しかし、裁判所では、私が代理人となり、事前に証拠化してきた記録を提出し、会社が粘り強く繰り返し改善の機会を付与してきたにもかかわらず、当該社員が改善しなかったことを詳細に説明しました。
その結果、当方の主張は全面的に認められ、最終的に解雇有効の判断となりました。
5. 本事例のポイント
本事例では、上長・人事担当者・私で密にコミュニケーションを取りながら
- 当該社員の言動(メール、発言、業務命令への対応等)が、客観的にみて業務に支障を生じさせているか
- 会社が注意・指導・面談・配置検討等により改善の機会を与えたか
- 改善の機会を与えられたにもかかわらず当該社員の問題行為が改善されなかったか
- 以上について証拠が残っているか
という点について十分に記録化しつつ案件を進めることができました。
会社としては何度も改善の機会を与えたにもかかわらず最後まで理解してもらなかったことは残念ですが、①~③について記録(しかも当方に有利な内容)を残すことができたため、裁判所にも会社の苦労や悩みが伝わったのだと思います。
このように、当事務所では、単に「解雇できます/できません」と結論を述べるのではなく、会社の実情に合わせて、「どのようにすれば解雇した場合に有効になるようにできるか」という観点から提案・実作業を行っています。
問題社員対応は会社側の負担が大きくなることが多く、また、会社側の立場としては理不尽とも思われる判断がなされることもありますが、裁判所で争われたとしても会社側の正当性を認めてもらえるように粘り強くかつ具体的に事前準備からサポートします。