解決事例:就業規則

守秘義務との関係上、簡略化及び一部改変を行っています

1. ご相談の背景

ご相談企業は、中堅規模のサービス業を営む30名規模の企業です。

当該企業は、設立当初にインターネットで見つけた就業規則のテンプレートをほとんどそのまま使うなど、労務関係の書類についてはあまり力を入れて整備してきませんでした。

設立以来労務トラブルに見舞われることがなかったため、それでも問題なく会社を運営することができていましたが、一度問題社員対応が発生し、会社からの注意指導に対して問題社員から就業規則に基づく反論をされるということが続きました。

幸い当該社員は自主的に退職しましたが、当該社員から延々揚げ足取りをされ続けたことから、あらためて就業規則を整備し直すべきではないかということになり、私にご相談いただきました。

2. 就業規則が重要な理由

就業規則の位置づけについては様々な捉え方がありますが、私は、就業規則は「働きやすい環境を作るための職場のルール」といった曖昧なものではなく、「会社が従業員に対して遵守することを求める会社のルール」(法律用語で「行為規範」といいます)であり、「訴訟や労働審判などの紛争になった際に参照される契約書」(法律用語で「裁判規範」といいます)であると考えています。

(1)「会社が従業員に対して遵守することを求める会社のルール」(「行為規範」)としての使い方)

事業を円滑に進めるためには、従業員が会社の求めるルールに従って就労することが必要となります。

例えば、業務に関して個人的にリベートを受け取るなど自らの利益を図ることは認められませんし、会社の機密情報を会社の許可なく自己のパソコンに移すことも認められません。

従業員がこういった行為を行った場合、会社としては注意指導を行うこととなります。

就業規則で従業員が遵守すべきルールをあらかじめ明示しておくと、注意指導を行う際に「就業規則第●条でその行為は禁止されている(形式的根拠)。そういった行為が行われると●●という不都合が生じる(実質的根拠)。だからそのような行為はやめてほしい」といったように納得感のある指導を行うことができ、素直に受け入れてもらいやすくなります。

このように、就業規則であらかじめルールを明示しておくことで余計な反発を回避し、紛争化しづらくすることができます。

(2)「訴訟や労働審判などの紛争になった際に参照される契約書」(「裁判規範」としての使い方)

そもそも、日本の労働法は労働者よりも強い立場にある会社側の力を抑えるための法律です。

そのため、裁判所の判断もどうしても労働者に寄り添ったものになりがちです。

しかし、そのような状況の中で、就業規則は会社側に認められた武器の一つです。

雇用契約を締結する際に職場で周知されている就業規則は、その内容が合理的である限り、雇用契約の一部として効力を有することとなりますが(労働契約第7条前段)、会社側は原則としてどのような内容の就業規則とするのかを自ら定めることができます(ただし一度作った就業規則を労働者に不利に変更する場合は制約があります)。

つまり、会社側は、自らに有利なルールを設定し、それに基づき就労することを労働者に求めることができるのです。

しかし、そういった特権が与えられているがゆえに就業規則を適切に整備していない会社には不利益が生じることとなります。

例えば、異動、業務内容の変更、懲戒処分、休職、降格など労働者に不利になりうる措置を行うためには、いずれも契約上の根拠が必要(雇用契約書や就業規則に定めがあるか、当該労働者が同意するかが必要)とされています。

これらの措置のうち雇用契約書で詳細に定めるのは通常は異動と業務内容の変更程度ですので、仮に就業規則がなければ、従業員が会社のお金を横領していたとしても契約上の根拠がない以上、懲戒処分や降格などの措置は無効となります。

このように、就業規則を適切に整備しておかないと、会社が行った措置が訴訟で無効と判断され、場合によっては金銭を請求されることもあります。

逆に言うと、就業規則を適切に整備しておけば、いざというときに会社が採りうる選択肢が増え、訴訟でも当該措置が有効と認められやすくなります。

(3)以上のとおり、就業規則は「会社が従業員に対して遵守することを求める会社のルール」であり、また「訴訟や労働審判などの紛争になった際に参照される契約書」でもあるため、慎重に作りこむことが重要となります。

なお、就業規則は会社側を拘束するものでもありますので、その点も意識する必要があります。

3. 就業規則を整備する際のポイント

就業規則を整備する際は、以下の点に注意する必要があります。

①会社の実態に即した内容になっているか

⇒例えば、労働時間や休日、休暇などの定めが会社の実態と異なっていると、会社の運用が就業規則に違反したものとなり、未払い賃金が発生したり、当該措置が無効となる可能性があります。また、会社に対する損害賠償請求が認められる場合もあります。

②必要な条項が網羅されているか

⇒例えば、懲戒処分や休職などの項目が漏れている場合があります。就業規則に定めがないとそれに基づく措置も取れなくなりますので、慎重に内容を検討する必要があります。

③各条項に「余計な一言」がないか

⇒実務的にはこれが最も重要なポイントです。詳細は後述しますが、世の中に出回っている就業規則の大半は「余計な一言」が入っており、会社側もこれに拘束されることとなります(私が作成する際は「余計な一言」が入らないように意識していますが、完璧な規定は存在しません)。

4. 具体例

私にご相談いただければ全体をチェックしますが、問題のある規定の例としては例えば以下のとおりです。

【懲戒処分】

(懲戒の原則)

第●条 会社は、従業員が本就業規則に違反した場合は適切な指導及び口頭注意を行うものとする。それにもかかわらず、改善されなかった場合に初めて段階的に重い懲戒処分を行うことができる。

就業規則は従業員を拘束しますが、会社側もこれに拘束されます。

そのため、就業規則の定めに反する懲戒処分は無効となる可能性があります。

上記の定めは、「懲戒処分は会社が指導や口頭注意を行っても改善されなかった場合に初めて行うことができる」という内容になっており、これに従うと、例えば従業員が多額の横領をしていた場合でもまずは指導と口頭注意にとどめる必要があり、いきなり懲戒処分はできないということになります。

また、懲戒処分を行う場合であっても、「段階的に重い懲戒処分を行うことができる」とされているため、横領の金額にかかわらず、やはり最初から重い懲戒処分はできないということになってしまいます。

私がチェックする際は、このような会社側の意思決定を阻害する条項は削除します。

【休職】

(休職)

第●条 会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、休職を命じることができる。

①業務外の傷病により連続して3ヶ月以上欠勤したとき

これは私傷病で連続3ヶ月欠勤すると休職を発令できるという規定です。

上記の定め方だと、欠勤中に有給休暇が付与されて取得された場合や途中で一時的に体調が良くなり出勤した場合は「連続」が途切れるため、3ヶ月の期間がリセットされることとなります。

このようなことにならないようにするため、「①業務外の傷病により連続又は断続して3ヶ月以上欠勤したとき」という規定になっていることもよくあります。

しかし、この場合は、どの程度の断続であれば「断続して3ヶ月」欠勤したといえるかが曖昧になってしまい、紛争を誘発するリスクがあります。

そこで、私は以下の規定が明確でよいのではないかと考えています。

(休職)

第●条 会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、休職を命じることができる。


(1)業務外の傷病により、欠勤、就業規則第●条に基づく就業禁止、遅刻又は早退(以下、「欠勤等」という)が連続又は断続して合計30日(暦日。前後が欠勤等している場合の休日及び休暇(休暇の取得理由を問わない)も1日として数える)に達したとき。ただし、欠勤等が合計30日に達した時点において、休職期間満了までに復職できる見込みが乏しい場合は除く。


注1 欠勤等が断続している場合において、最後の欠勤等から6ヶ月が経過したときは、欠勤等の日数を1日目から数え直す。


注2 先行する私傷病による欠勤等の途中において別の私傷病が発生した場合でも、先行する私傷病による欠勤等の日数と別の私傷病による欠勤等の日数は通算する。

上記規定は、要するに私傷病による欠勤、就業禁止、遅刻、早退となった日が合計30日に達した場合は、休職を発令することができるという内容です。

また、一定期間通常どおりに就労した場合はリセットできるようにしておかないと労働契約法第7条前段の「合理的な労働条件」にあたらなくなり効力が生じない可能性がありますので、注1にあるように最後の欠勤等から6ヶ月が経過した場合は期間がリセットされるようにしています。

注2は、例えば適応障害で欠勤している間に交通事故で骨折したような場合は、どちらを理由に休んだとしても合計30日の中でカウントされることを明示した定めです。

私としては、このような定めが会社側に有利であり、かつ、扱いが明確になるのではないかと考えております。

5. 変更後の就業規則の導入サポート

就業規則を現行よりも労働者に不利に変更する場合は、従業員から個別に同意を得るか、内容や手続等を踏まえて合理的な変更であることが必要となります。(労働契約法第9条・第10条)

いずれにしても、会社側は、就業規則を変更するにあたり、従業員説明会を行うなどして従業員の方々から理解が得られるように慎重に対応を進めていく必要があります。

私にご相談いただければ、同意書の作成、また従業員説明会での説明資料や想定Q&Aの準備も含め変更後の就業規則の導入をサポートします。

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