守秘義務との関係上、簡略化及び一部改変を行っています
1. ご相談の背景
ご相談企業は、中堅規模の企業です。
製造部門に長年在籍する従業員(以下「当該上司」といいます)の特定の部下(以下「当該部下」といいます)に対するあたりが強く、他の従業員も出席している会議の場で毎日1時間前後叱責を続け、人格を否定するような発言も多くなされているといった状況が続いていました。
当該部下は我慢強く耐えていたようですが、当該部下が強く叱責される様子を見せつけられていた同僚たちは次々と退職していってしまい、当該上司の管轄しているチームは離職率が他の部署の数倍あるような状況になっていました。
会社は当初は当該上司の行為を把握できていませんでしたが、当該部下の同僚が当該上司の言動を退職理由として挙げたため、会社としては状況の調査と労働環境の改善に向けて対応を行うこととなりました。
そこで、こういったハラスメントが疑われる状況において、会社としてはどのように対応を進めていく必要があるのかについて、私にご相談がありました。
2. 争点になりやすいポイント
この種の案件では、後日「会社が認定したような事実はない」「パワハラにあたるような行為はしていない」「不当な手続で進められた」といった主張されがちです。
このような案件では、会社側としては次の点が特に重要になります。
- 当該上司が行っていたとされる問題行動が実際にあったと認定できるか
- 問題行為があるとして、それがハラスメントにあたるか
- どのような手続で検討を進める必要があるか
- ハラスメントにあたる行為があった場合にどのような対応をすべきか
3. 基本方針
ご相談を受けた時点で、会社としては「これ以上、退職者を出さないように労働環境を改善したい」という強い意向がありました。
もっとも、適切に調査を進めないと、最終的に懲戒処分を行った際に処分の有効性を争われてしまい、紛争化する可能性があります。
そのため、会社として必要な調査・検討を行いながら慎重に手続を進める必要がありました。
そこで、私の方で、何をどのような手順で進めていくのかについて提案を行いました。
4. 実際に行った提案と作業内容
(1) 状況の整理と方針の提案
まず、会社が状況を把握したのは退職者からの話でしたので、本当にそのような状況があったのかを確認する必要があります。
そこで、以下の方針で進めることをご提案しました。
- 当該部下と個別に面談を行い、状況について確認する。その中で問題だと思われる行為について、具体的に5W1Hを特定しながら列挙していただく。関連証拠があればそれも頂く。
- 当該部下に列挙していただいた行為を目撃していた従業員にヒアリングを行い、事実を確認する。
- 当該上司に当該部下が列挙した問題行為について確認しつつ、弁明したいことがないかヒアリングをする。
- 上記①~③を踏まえて会社側で事実認定を行い、その認定した事実に基づき懲戒処分を行うか否か、懲戒処分を行う場合はどの程度の処分とするかを検討する。
- 懲戒処分を行う場合は当該上司に通知し、実施する。それと共に社内で匿名での公示を行い、当該上司の異動も行う。
この提案を受け、会社としては、もし本当に当該上司が当該部下に対してハラスメント行為を行っているのであれば、重大な懲戒処分を行いつつ、再発防止のために匿名での社内公示を行いたいという意向が示されました。
(2) 実際の作業内容
ヒアリング調査は、弁護士が同席する場合と会社の担当者だけで進める場合があります。
弁護士が同席すると、ヒアリング対象者を緊張・警戒させ、かえって口数が減ってしまうことがあるというデメリットがありますが、この案件では手続の適正を確保したいという意向がありましたので、私も同席してヒアリングを進めることとしました(なお、私が同席するときは別途費用が発生する場合があります)。
最初に当該部下に全体の状況を確認したところ、当該部下からは当該上司を許せない、これを機に処分をしてほしいという発言がありましたので、直近で特に精神的に負荷のかかった当該上司の言動を挙げていただきました。
当該部下の話を踏まえていつ・どこで・どういう状況で・何分程度・どういうことを言ったのかといった点を特定しつつ、最終的に私がヒアリングの場でシートにまとめました。そして、最後にそれを読み上げて当該部下から了承を得ました。
ただし、当該部下がピックアップした言動には録音等の証拠はなかったため、他の従業員へのヒアリングを通じて認定するか否かの判断をしていくことになりました。
この後のヒアリング調査では、「当該部下がピックアップした事実関係があるか否か」という点について確認を行っていくこととなります。
当該部下からは、その言動を目撃しているはずの従業員が誰かを教えてもらいましたので、事前に当該部下に対して正式に調査を進めていくことについて了承を得た上で、目撃者として名前の挙がった従業員に順次ヒアリングを行っていくこととしました。
その際は、当該部下のヒアリングをまとめたシートに基づき、「●年●月●日、当該上司が当該部下に対して●●という状況で●分程度●●という言動を行った」という点を確認していきました。
質問の方法については、オープンクエスチョンで聞いていくことができるのがベストですが、日々の業務の中での出来事で難しいということであれば、クローズドクエスチョンで聞いていくこともありうると考えます。
そのように目撃者とされる従業員に順次ヒアリングを行ったところ、各従業員が口をそろえて「確かにそのようなことはあった。当該部下は辛かったのではないか」といった回答がありましたので、私の方で具体的なコメントをシートにまとめていきました。
その上で、最後に当該上司に対して事実確認を行いつつ、弁明したいことがないかヒアリングを行ったところ、当該上司からは「一部の言動は確かにあった。
しかし、それは仕事ができない当該部下が悪い。何回言ってもミスをするから強く指導しただけだ。その他は覚えていない」という回答がありました。
このような当該上司からの回答を受け、客観的な証拠がない状況で、あくまで中立的な立場にある会社としては難しい判断に迫られました。
しかし、私と会社で協議した結果、この件では、①もともと退職者からの報告で調査が開始したのであり、当該部下が積極的に申告したものではないこと、②当該部下の主張する事実は具体的である上、複数の従業員も目撃していると述べていることなどから、当該部下の事実についてはすべて認定できるという結論に至りました。
そして、「当該部下に繰り返しミスがあったのであれば多少強く指導することは許容されるとしても、人格否定を行う必要はない」として、パワハラにも該当するという判断になりました。
その上で、懲戒処分としては、①長期間にわたって反復継続して執拗な叱責がなされていること、②当該部署が他の部署よりも離職率が高いなど事業への支障が出ていること、③過去にハラスメントセミナーを何度も受講していること、他方で④懲戒歴はないこと、⑤一応指導として行っているという側面もなくはないことなどを考慮し、最終的に出勤停止3日の処分を行うこととなりました。
そこで、私の方で、会社と協議した結果を踏まえ、懲戒処分通知書や社内公示の書面を作成しました。
また、異動先についても会社と協議しつつ決定しました。
以上を踏まえ、私も同席する状況で、会社から懲戒処分通知書や匿名で社内公示を行うこと、また異動となることを通知しました。
当該上司は最初は反発していましたが、事実認定やハラスメント該当性も含め、懲戒処分に至った根拠・理由を詳細に説明したところ、理解が得られ、最終的には反省の弁が述べられました。今のところはその後同様の行為があったという話は聞いていないため、無事に解決したものと思われます。
5. 本事例のポイント
本事例では、人事担当者・私で密にコミュニケーションを取りながらヒアリング調査を慎重に実施できたことが成功のポイントとなりました。
退職者から当該上司の話を聞いた直後に当該上司に対して話をするのではなく、まずは当該部下の方に事実確認を行い、その後それを目撃していた同僚にも裏付け調査を行ったことで、当該上司からの反論に対して説得的な回答を行うことができました。
ハラスメント対応は単に話を聞いていけばよいというものではなく、常に①事実認定できるか、②それがハラスメントに該当するか、③どのような処分を行うかといった点を意識しながら案件を進めていく必要があります。
訴訟になっても主張を維持できるように周到に準備することで、紛争化することを未然に防止することができます。
私にご相談いただけば、具体的にどのような手順で何を行い、それを踏まえてどのような対応がありうるかについて提案しますので、安心して手続を進めることができます。